INTRODUCTION

1980年代後半にルイジアナ州ラストンで誕生した〈エレファント6〉。高校時代からの仲間であるビル・ドス、ウィル・カレン・ハート、ジェフ・マンガム、ロバート・シュナイダーらが自宅に集合しては手あたり次第に手に入れた楽器や機材を使って“実験”をはじめる―
サイケデリック音楽に影響を受け、共通の感性を持つ彼らはコロラド州デンバーやジョージア州アセンズといった小さな大学都市へ移り住み、新しい音楽世界を創造しようとさらに“実験”を重ね、後に「オリヴィア・トレマー・コントロール」、「ニュートラル・ミルク・ホテル」、「アップルズ・イン・ステレオ」といったバンドが生まれたのだ。この3つのバンドはエレファント 6の基盤となり、間もなくして数多くのバンドがコレクティヴに参加した。
ロバート・シュナイダーと友人でもあるチャド・ストックフレス監督が約10年の歳月かけてカメラを回し続けた本作は、2019年に返却必須のレンタルビデオ方式のみで公開され、VHSビデオテープでしか見ることができなかった幻のタイトルであり、数多くのアーティストたちの活動の裏側を紐解いていく。関係者へのインタビューはもちろんのこと、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作のイライジャ・ウッド、『エターナル・サンシャイン』(04)のデヴィッド・クロスなども出演し、登場人物は多岐にわたっている。家賃の安い大きな家を借りて仲間たちと暮らし、ある時は部屋にアルミホイルを貼り付けてはスタジオにするなど、彼らは常にDIYで創造することにこだわり、レコーディングを重ねていた。友情ではじまった彼らの活動は、当時主流だった音楽への反発心もあいまって支持を広げ、アメリカのミュージックシーンにかつてないムーブメントを巻き起こしたのだった。

CAST

ウィル・カレン・ハート
Will Cullen Hart
1971年6月14日、ルイジアナ州ラストン生まれ。幼少期の一時期、アラバマ州やコロラド州、テキサス州で過ごし、9年生(中学3年)の時にラストンに戻り、エレファント6を共に立ち上げたビル・ドス、ジェフ・マンガム、ロバート・シュナイダーと出会う。初期のプロジェクトには、ソロ名義のオールウェイズ・レッド・ソサエティと、マンガムとのプロジェクトであるクランベリー・ライフサイクルがあった。その後、マンガム、ドスと共にシンセティック・フライング・マシーンを結成し、後にオリヴィア・トレマー・コントロールへと発展した。2024年11月29日、心臓発作のため53歳で死去。
ビル・ドス
Bill Doss
1968年9月12日、ルイジアナ州デュバック生まれ。で誕生。ラストン高校でハート、シュナイダー、マンガムといった友人たちと出会った。オリヴィア・トレマー・コントロール以前、ドスはサンシャイン・フィックス名義でレコーディングを行い、後にオリヴィア・トレマー・コントロールの楽曲群を構成する要素となる「A Spiraling World of Pop」を自主リリース。バンドを組むまで、彼は軍隊に入隊し、その後ニューヨークを拠点とするバンド「チョコレートUSA」に加入した後、ジョージア州アセンズに戻り、2012年7月31日に動脈瘤のため亡くなるまでそこに住んでいた。
ジェフ・マンガム
Jeff Mangum
1970年10月24日、ルイジアナ州ラストンで生まれ。10代の頃、ミニットメンやジョン・ケージ、1960年代のサイケデリック音楽に影響を受け、ホームレコーディングに情熱を注いだ。1990年代初頭、ハートやドスと共にジョージア州アセンズに移転。アメリカ中を旅し、ミルクという名前でソロの4トラック・テープ・レコーディングに取り組み、間もなくニュートラル・ミルク・ホテルが誕生。1994年から1995年にかけて、コロラド州デンバーにいるロバート・シュナイダーのペット・サウンズ・スタジオでデビューアルバム『On Avery Island』をレコーディング。1997年にデンバーに戻り、『In the Aeroplane Over the Sea』をレコーディングした。このアルバムは翌年にリリースされ、インディ・ロック史上最も高く評価されたアルバムの一つとなった。
ロバート・シュナイダー
Robert Schneider
1971年3月9日生まれ。南アフリカのケープタウンで6年間を過ごした後、ラストンに移住。ドス、ハート、マンガムと親しくなり、彼らと共に音楽に触れるようになる。高校卒業後、ルイジアナ州シュリーブポートのセンテナリー大学で2年間を過ごした後、デンバーに移り、コロラド大学に入学。その後、音楽家への夢を追うために学校を中退する。アップルズ・イン・ステレオのリードシンガー、ソングライター、ギタリスト、プロデューサーとして活躍。ニュートラル・ミルク・ホテル、オリヴィア・トレマー・コントロール、ザ・マインダーズといった数々のサイケ、インディ・ロックバンド、そしてオノ・ヨーコやコーネリアスのアルバムに参加している。2018年にエモリー大学で数学の博士号を取得。ミシガン工科大学では数理科学の助教授を務めており、整数論と組合せ論、特に整数分割理論と解析的数論を専門としている。

ELEPHANT 6 THE COLLECTIVE + EXTENDED FAMILY

The Apples in Stereo
エレファント6の中心人物の1人であるロバート・シュナイダー率いるThe Apples in Stereoは90年代以降のUSインディーポップを代表するバンドのひとつです。実験精神とポップセンスを兼ね備えたバンドを多数輩出したエレファント6ですが、The Apples in Stereoはその中でも特にメロディ志向が強く、甘く親しみやすい楽曲を多数リリースしました。1995年リリースのデビュー作『Fun Trick Noisemaker』では、宅録的な質感と多重録音を駆使したサウンドを展開し、日本にもエレファント6の存在を知らしめるきっかけになりました。続く『Tone Soul Evolution』や『Her Wallpaper Reverie』では、より洗練されたプロダクションとサイケデリックなアレンジを発展させ、2000年代に入るとパワーポップ的なアプローチを強めた『Velocity of Sound』や『New Magnetic Wonder』をリリースし、より開かれたインディポップバンドへと進化していきました。このように一つのバンドから生まれたとは思えないほどのバラエティ豊かな作品群が彼等の大きな特徴です。
Neutral Milk Hotel
かき鳴らされるアコースティックギター、ノイジーでローファイな録音、そして胸をかきむしる絶叫にも似た歌声。Neutral Milk Hotelはジェフ・マンガムを中心に結成されたインディロックバンドです。ローファイで温かみのあるサウンド、アコースティックギターやブラスを取り入れた素朴でありながら混沌とした編成、そして寓話的な歌詞世界が彼等の大きな特徴です。1998年発表の『In the Aeroplane Over the Sea』は、ホロコーストの少女アンネ・フランクに着想を得たともいわれ、死と愛、生の儚さを主題にした作品として高い評価を受けています。1990年代の名盤といえば?という話題で1番にこのアルバムを挙げる人も多いのではないでしょうか。商業的成功よりも先に口コミや批評家の支持によって評価が広がり、2000年代以降のインディーフォークやローファイ系アーティストに大きな影響を与えています。
Olivia Tremor Control
The BeatlesやThe Beach Boysから得たインスピレーションを、宅録的なローファイの美学、コラージュ、ノイズ、逆再生、環境音の挿入など、ありとあらゆる実験的手法で再構築するような、そんな普遍的なポップネスとアヴァンギャルドな実験精神の融合がOlivia Tremor Controlの大きな特徴です。商業的成功とは距離を置きながら、それでもポップミュージックにはまだ拡張の可能性が残っていることを提示する重要な存在でした。解散までに彼等がリリースしたアルバムは、いずれも90年代のインディシーンを象徴す重要な足跡として、現在も再評価が続いています。そんなOTCも2000年には一度解散し、ビル・ドスは自身の別プロジェクトであるSunshine FixやThe Apples in Stereoでの活動へ、ウィル・カレン・ハートはCirculatory Systemを結成しそれぞれの活動に集中していくことになります。その後、ウィルの入院がきっかけとなり2人は和解。2009年には正式にOTC再結成を果たします。しかし、2012年にビル・ドスが43歳という若さで亡くなってしまいます。その後も残ったメンバーで活動を続けたOTCですが、2024年にはウィル・カレン・ハートもこの世を去ってしまいました。彼らが遺した実験的で美しい音楽が、この先も多くの人に聴き続けられることを祈っています。
テキスト協力:HAPPY(KUNG-FU GIRL)
Always Red Society
Thee American Revolution
Bablicon
Beulah
Black Swan Network
Casper&the Cookies
Chocolate USA
Circulatory System
Clay Bears
Dixie Blood Mustache
Dressy Bessy
Elf Power
The Essex Green
Fable factory
Faster Circuits
Frosted Ambassador
Garment District
The Gerbils
Giant Day
Great Lakes
A Hawk And A Hacksaw
The Instruments
Kingsauce
The Ladybug Transistor
The Late B.P. Helium
The High Water Marks
Major Organ and the Adding Machine
The Marbles
Marshmallow Coast
Marta Tennae
Midget and Hairs
The Minders
The Music Tapes
N.Gallons
of Montreal
Orbiting Human Circus
The Patient
Pipes You See, Pipes You Don’t
The Rishis
Scott Spillane EXP
Secret Square
Sunshine Fix
Synthetic Flying Machine
ulysses
Thimble Circus
Vince Mole & His Calcium Orchestra
Visitations
Von Hemmling

DIRECTOR

チャド・ストックフレス
C.B. Stockfleth
ルイジアナ州ニューオーリンズを拠点とする映画監督。ケンタッキー州中部で育ち、高校を中退。その後、オーランドのフルセイル大学で映画学科に進学。過去20年間、主にケンタッキー州ルイビルでCMディレクター兼フォトグラファーとして活躍している。「アップルズ・イン・ステレオ」や「オリヴィア・トレマー・コントロール」といったバンドのミュージックビデオの制作やライブに携わるほか、数え切れないほどの地方CMや企業PRを監督し、数々の賞を受賞している。

COMMENT

(順不同・敬称略)
Elephant 6の映画を観て、90年代のUSインディの空気を久しぶりに強く思い出しました。サイケデリックでローファイ、DIYで、どこかビーチ・ボーイズの影も感じるような音楽。自分と同世代の感覚として、とても共感するところがありました。
当時、自分のレーベルでもThe Apples in Stereoのアルバムの日本盤をリリースしましたし、『Fantasma』ではRobert SchneiderとHilarie Sidneyと共演しました。“Chapter 8”という曲は、事務所のスタジオのソファに座って、Robertと二人でギターを弾きながら作った記憶があります。Robertはとてもポジティブで、ものすごく早口で、話が止まらない人でした。
その後も海外のフェスで偶然再会したりすることがありましたが、この映画を観て、90年代という時代がもうずいぶん遠くなったのだなと、少し感慨深い気持ちになりました。
いつかまたどこかで会って、“Chapter 8”を一緒にライブで演奏してみたいです。
小山田圭吾
ミュージシャン
2000年、アセンズでThe Olivia Tremor Controlと『Once Upon A Time』というミニアルバムを作ったのですが、思い出すと、それはまるで柔らかい壁に手を触れてそのまま吸い込まれたような体験だったなと思う。
この映画はその壁の向こう側の、凄い世界の話。
カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー
彼らの音楽に触れたことがきっかけで、私も宅録を始めました。本作を観ていると、「時代も場所も違うけど、自分もエレファント6の一員かも?」なんて気分になれて嬉しくなります。後追い世代の私にとって、当時のライブ映像やインタビューを観ることができたのは最高の体験でした。この作品は、そんな私たちのためのタイムマシーンであり、どこでもドアです。
Setter(Setter & The Teammates)
ミュージシャン
これは"誰も知らない遊園地の話"かもしれない。
でも多くの音楽好きやミュージシャンにとっては"自分のこと"かもしれない。
僕たちがやってることは何かになるのだろうか(ならなくても)
"How strange it is to be anything at all"
トクマルシューゴ
ミュージシャン
お金がなくても、仲間と自由があればなんだってできる!
唯一無二のサウンドは、いつだって爆発的な創造性を持ったコミュニティから生まれる。
ロックの歴史を変えた、アンダードッグたちの反骨精神の記録。
竹田ダニエル
ライター・研究者
DIY、カセット、溢れ出すサイケデリックなアート。
永遠に鳴り響くローファイなエコーに撃たれて、
遠く忘れかけていた衝動が蘇った。
作り続けよう、と思った。
高野寛
ミュージシャン
ビル・ドスのセリフ
「目が覚めた時には理解できていた夢の内容が誰かに説明しようとすると意味不明になる感じ」
まさにそんな、なんと美しく、なんて儚く、なんて純粋な音楽家達。この音楽も映像も本当に奇跡だと思う。
サカモトヨウイチ
ELEKIBASS / WaikikiRecord
オルタナ・バブルに沸く90年代のUSロック・シーンで、
売れることより仲間と自由に創作することを選んだ若者たち。
彼らは食べ物を分け合い、宅録とライヴに明け暮れた。
そんな小さなユートピアを描いた『エレファント6レコーディング・カンパニー』は、
アートと友情をめぐるインディー青春グラフティだ。
村尾泰郎
映画/音楽評論家